舞台に登場したのは「今月の成績次第では会社をリストラ?!」と、生き残り瀬戸際な環境に追い詰められた、この物語の主人公である、ミカサホームの営業を担当している田畑恵(生天目仁美)。
かつては恋人関係であり、いまだに田畑に未練を抱くことから、密かに彼女の力になろうとしていく、ミカサホーム人事部の脇田(牧田侑士)。
モデルルームの事務員であり、田畑の同期社員でもある、霊感の強い木村香奈(清水香里)。
木村の後輩であり、一緒にモデルルームで働く、イマドキの女の子風な新人社員の青木(小清水亜美/後藤麻衣)。
憧れのマイホームの購入を夢見て、ミカサホームの営業として働く田畑に相談し続けてきた、まだまだ新婚状態、でも妻にうだつの上がらない夫の阿部俊介(戸辺俊介)と、お腹に妊娠7ヶ月目の双子を身ごもっている、情緒不安定な妻の阿部マリア(広橋涼)夫妻。
そしてモデルハウスを観に来たと語る謎のおじいちゃん(山根博)。
この7名によって、笑いがいつしか感動へと変わってゆく物語を演じていった。先に簡単に粗筋を語っておこう。
マイホーム購入の決意を、ほぼ固めながらもあと一歩の決断が出来ずにいた木村夫妻。2人は担当の田畑へ、モデルルームに1泊させてもらえれば、購入の決心がつくと相談を持ちかけた。本来なら、購入希望者へモデルルームの宿泊は一切禁止だが、リストラの第一候補に上がっていた田畑は「これがリストラを逃れる最大のチャンス」と捉え、会社に内緒で、モデルルームへの宿泊を許可してしまった。
誰も客の来ない、平日昼間のモデルルームでは、当モデルルームの案内を担当する木村と青木が、本来なら禁止であるモデルルームでお弁当を広げようとしていた。そのとき、木村の電話が鳴り響いた。相手は、田畑。「これから見学者が足を運ぶから、自分が行くまで相手をして欲しい」との依頼だった。その電話を切ってすぐ、ドアチャイムの音が……。「早すぎっ!」と突っ込んだのもつかの間、招き入れたのは、ひとりのおじいちゃんだった。おじいちゃんは「側に人がいると落ち着かないから一人で部屋を見る」と言いながら、部屋中を探索し出した。

おじいちゃんが、ひとりで部屋を見ている間に、木村と青木はふたたび昼食を取ろうとする。そこへやってきたのが、阿部夫妻。2人は「今日、ここに泊めさせていただきます」と挨拶。その言葉を聞き、困惑する木村。そこへ、遅れて田畑が現れた。木村の話によると「このモデルルームは、夜21時以降になると赤外線のセキュリティがかかるから、警備会社にセキュリティを外してもらわなければいけない」と発言。さっそく問い合わせるが、セキュリティ会社は「本部からの連絡を受けないと、セキュリティは外せない」と言ってきた。仕方なく、本部の知り合いに田畑は電話。その相手が、かつての恋人であった脇田だった。
電話で話を聴いた脇田は「宿泊など絶対に許可できない!!」と怒鳴り。その怒りを抱いたまま、モデルルームまで乗り込んできた。脇田が乗り込んだモデルルームでは、自律神経の脆い奥さんのマリアが、ヒステリーを起こし、旦那どころか、ミカサホームの人たちをも巻き込んだ騒動を起こしていた。さらに、謎のおじいちゃんが、亡くなった奥さんの変わりという巨大な風船人形を抱きながら、同じようミカサホームの人たちを困惑させていた。
物語は、モデルルームを舞台に“次々と起こる騒動”を「縦軸」に、その騒動の中から見えてくる“人が心の中に抱えている様々な本音の想い”を「横軸」に据え、次々と起こる難題の解決を模索しながら、クライマックスへ向かって暴走列車のように進んでいく。しかも、その騒動の中から見えてきたのは、登場人物たちの、様々な“生き方”の背景だった。
偉そうに威張っているが、じつは田畑に未練たらたらだった脇田の、立場を駆使した田畑への縒りを戻すための姑息なアプローチや、権力の傘の下から見えてきた、一人の男としての情けない姿。
自分の身を守るため、ときには脇田の誘いさえ利用してゆく田畑の、女としての野心や執念。崖っぷちに立ったときの、女性の強さ。
つねにヒステリーを起こすマリアは、感情のままに行動するあまり、自我を抑えることが出来なくなる女性の感情の動きを顕著に現す存在として映り。
マリアのために、右往左往、翻弄される俊介の姿は、女性上位であることへ甘んじることに喜びを覚えてゆく、現代社会の中で生きる男性像を描き出していた。

霊感の強い木村は「仕事のためなら自分の感情さえ殺す」ことを厭わない姿を提示しながら、会社という社会で生きてゆくための姿を提示。
若手社員の青木は、自分を押し殺す術を知らず、自分の感情優先のままに生きていく。その姿は、今の若い人たちの「長いものに巻かれない主義」を貫く生き方そのものであり。でも同時に、年齢を重ねるにつれ、「長いものに巻かれてゆくしかない」姿も、その行動の中から示唆していた。
そして、おじいちゃん。じつは彼は、アルツハイマー。つまり、ボケになり、次々と昔の記憶を失いながらも、忘れたくない思い出を求め、亡くなった奥さんの姿を、腕に抱えた巨大な空気人形へ投影しながら、このモデルハウスへ足を運んだという理由が判明。
さらにこのおじいちゃん、田畑の父親という驚愕の事実も明かされる。昔は、腕の立つ大工で、このモデルルームが最後の建築物であり。内緒で家族と一夜を過ごしたことがある過去が吐露。
じつは田畑おじいちゃん、一度築いた大家族の命を、火事で家ごと失い、失望。その後、唯一生き残った夫婦の間に恵が生まれ、それから「家族で一緒に過ごすことの大切さ」を第一に考えて行動するようになった過去も、次第に明らかになっていった。
マイホームというのは、人が、人生を賭けて買い物をする「一大事」である。だが、その結果、大きく膨れ上がったローンの返済のため、家庭の長である父親は、ときには両親揃って、その返済のためにと、家庭を省みることなく、一心不乱に働き続けてゆく。
その結果、みんなで一つに繋がりたいからこそという本来の目的は消え。当初の目的とは間逆になる「交流の希薄な家庭」が続々誕生しているのが、今の世の中の現実でもある。

なぜおじいちゃんが、老人ホームを抜け出しモデルルームに足を運んだか……。
そこは、おじいちゃんが最後に手がけた家という理由が一つ。その家には、奥さんが亡くなる前に、一夜だけとはいえ「憧れのマイホーム生活」を味わおうと、一緒に住んだ強い思い出が眠っていた。さらにおじいちゃんは、老人ホームには「家族がいないから居たくない」と発言。
阿部夫妻も、おじいちゃんの話を聞き、本当に大切なのは「我が家を手にすること」ではなく、どんな家でもいいから「家族が一緒に寄り添い合って暮らすこと」こそが幸せであり、大切なんだということを実感。結果的に、マイホームの購入をあきらめてしまう。その騒動をずっと見てきた田畑恵も、改めて家族の大切さを実感し、自分の野心や生き残りよりも、大切なものを発見していくことになる。
ちなみに、なぜ木村香奈が霊感の強い女性役だったのか……?
根底にシリアスなメッセージや想いを敷きながらも、物語を展開していく上での各人の会話や騒動は、どれもスラップステッィク風なコメディ調子で進んでいた。むしろ、笑いや笑顔の裏に隠された真実に気づいたとき、この物語は、大きな感動となって心へ響いていく。まるで、ピエロの顔に描かれた涙のように。
そうそう、霊感の話だ。じつは7人とも、結果的に朝までモデルルールで過ごさざるを得なくなってしまう。その理由が、強い雷雨という自然災害によって土砂が崩れ、道が通行止めになり、復旧作業による通行再開が朝になってしまうからだった。しかもその土砂災害に、一組のカップルが巻き込まれ、一人が亡くなったという。
その事件の直後から、霊感の強い木村は、強烈な寒さに身体を犯されていた。当初は、一時行方をくらましていた阿部夫妻が「その事件の犠牲者じゃないか?」と憶測が立っていたが、夫妻はすぐに戻ってきて、土砂災害とは関係なかったことが判明。
それでも、霊感からくる悪寒の止まらない木村。そして翌朝、おじいちゃんがラジオを使ってニュースを聞き始めたところ、流れてきたのは、昨夜の土砂災害の件。そこで亡くなった人の特徴がおじいちゃんそっくり(カップルという相手は、空気人形?)…。でも物語は、あえて、謎を含んだまま終わらせていた。

先にも触れたが、人を笑わせることに生き甲斐を感じているはずのピエロが、目の下にかならず描く涙。笑いの裏には、何時だって悲喜こもごもとしたシリアスな人生模様がある。それを忘れたくて笑うのか、それを隠すために笑おうとするのか……。深いことを考えることなく、ただただ笑い転げるだけでも、心には晴々とした青空が広がっていく。けれど、青空の理由を知ったときのほうが、何時も以上にその空が冴え渡って見えていくのも、事実。
この物語は“マイホーム”という題材を軸に、それぞれの“ホーム=心の故郷”ということを教えてくれた。
「なば缶1本目」と名付けられたように、今回は、言うなれば旗揚げ興行だ。だが、これだけ胸にジンとくる、そして笑顔が尽きない物語を見せてくれたとなれば「2本目」が観たくなる。公演終了後、しばらく会場を包んでいた拍手喝采は、それだけ期待を抱いている人たちも数多くいたということ。ぜひ、次の舞台も鑑賞したいと、心より思っている。
| 『ホエン・アイ・ゲット・ホーム』 ◆出演者◆ 生天目仁美 広橋涼 清水香里 小清水亜美/後藤麻衣(Wキャスト) 戸辺俊介 牧田侑士 山根博 ◆劇場◆ 新宿シアターモリエール |