現在、絶賛公開中の劇場用3Dアニメーション『ドットハック セカイの向こうに』。「.hack」シリーズの最新作でありながら、よりリアル/バーチャルとのシンクロ率を高め、中学生たちの青春ドラマの要素も強く押し出し、これまで「.hack」の世界観を知らなかった人たちでもすんなり楽しめる内容に仕上げている。同作品の魅力を、松山洋監督にじっくりと伺った。
『ドットハック セカイの向こうに』に関しては、完全にリアルへ比重を置いている。
劇場公開中
『ドットハック
セカイの向こうに』

僕たちは、思ってる以上に つながってるのかもしれない
少しだけ先の未来。福岡・柳川に暮らす中学生の有城そらは、幼なじみの岡野智彦やその友人の田中翔が全世界規模のオンラインゲーム「THE WORLD(ザ・ワールド)」に夢中になっているなか、取り残されたような気分で毎日を過ごしていた。ある日、ゲーム嫌いの頑固者で、そらがゲームから遠ざかる原因を作った祖父まで「THE WORLD」にはまっていることを知り、ついにそらも「THE WORLD」を試すことに。ゲームを通じて距離感を縮めていく中で、そらは田中と思しきアバターからゲーム世界で告白される…!
その頃「THE WORLD」にも現実にも、異変が起こり始め……。
監督:松山洋
脚本:伊藤和典
キャラクター原案:貞本義行
主題歌:「光をあつめて」KOKIA
(フライングドッグ)
企画・製作:.hack Conglomerate
アニメーション制作:サイバーコネクトツー sai アニマ
配給:アスミック・エース
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−−『ドットハック セカイの向こうに』を観て強く感じたのが「THE WORLD」というバーチャルなゲーム内で展開される物語がありながらも、作品全体を通してヒロインの有城そらを中心とした仲間たちによる“繋がりあいたい想い”を共有していく青春物語を描いています。
「.hack」という企画シリーズ自体が、リアルな人間の世界とTHE WORLDというゲームの中の世界との二層構造になっているように、少しややこしい設定になっています。それを今回は全国公開の劇場映画として発信していくことから、まずは人間ドラマを中心に据えました。リアルな世界での物語を丁寧に描き、物語の流れを整理したうえで、ゲームの中の情報を伝えていく流れにしないと、初めて「.hack」の世界に触れた人には「何が、どうなっているのか?」とわからなくなってしまう。だから「.hack」のことをまったく知らない人が触れても、スムーズに物語の世界観へ入っていける構成や流れを強く意識していました。
−−テレビシリーズでは、9割がゲームの世界でしたが。『ドットハック セカイの向こうに』では、ゲームの世界/現実の世界との比率が、だいぶ縮まっていませんか?
おっしゃる通り、今までのアニメやゲームでは9割がゲームの中の世界で、リアルは1割程度でした。けれど『ドットハック セカイの向こうに』に関してはリアルを6割、ゲームの中の世界を4割に設定したように、完全にリアルへ比重を置いてます。そうしたのも、下調べや事前情報を集めたうえで楽しむゲームの世界とは違い、映画というのは、何の前情報もなしに気軽に観に行くものじゃないですか。だから、そこはいちばん気をつけて演出していきました。
作っては壊す、つまり「クラッシュ&ビルド」に慣れている。
−−『ドットハック セカイの向こうに』の制作には、どれくらいの日時を要したのでしょうか??
丸4年かかっています、長かったですね(笑)。現場がゲーム会社でしたから、幸いなことに作っては壊し、また作っては壊す。つまり「クラッシュ&ビルド」という作業に、スタッフはみんな慣れています。
−−クラッシュ&ビルド……ですか。
そう。ゲームソフトは正解がない。感情的に面白いと感じるか、そうじゃないか。たとえば、その楽しさを求めて制作した中で、実際にプレイをしてみると思いのほか、想定していた面白さに辿り着いていなかったということが日常的にあるんです。その面白さがまだ足りないとなったときに“何処の要素を伸ばして、どこの要素を引っ込めるか”という呼び戻しの作業を、納得がいくまで何度も何度も繰り返していきます。
通常のアニメーション制作は“脚本→絵コンテ→レイアウト→原画→動画→着彩→仕上げ”と上から下へ順に流れていく作業になる。しかもその場合、人それぞれが、その分野の役割のみを担っていくことになる。だけど、ゲームの場合は二足の草鞋どころか、その草鞋を一人で六足くらい履き、それぞれが担っていかなきゃいけない。
たとえば、すでに絵コンテも全部決まっているのに、伝わりにくい箇所が出た場合、僕らは平気で絵コンテから作り直したり、脚本になかったセリフを足したり削ったり。アフレコを終えたあとでも、絵を変えたり、収録したセリフをカットしたり。そういった細々とした作業を、みんなで手分けをしては何度も何度も繰り返し、制作していきます。
そのうえで、全編を繋げた状態の作品を、今度は「観ていて気持ち悪いところはないか、感情の導線はしっかり繋がっているか」をスタッフみんなで繰り返し観て、細かくチェックしていく。その作業を納得いくまで何度も何度も直しながら、この『ドットハック セカイの向こうに』を完成させていきました。
−−『ドットハック セカイの向こうに』の持つテンポ感は、ホント心地好かったです。導入部からラストまで、一気に青春物語に引き込まれ、思いきり自分たちが『ドットハック セカイの向こうに』という世界へ没入し続けていました。
そのテンポ感にはとても苦労しました。そらは、THE WORLDというゲームのことをよく知らない主人公じゃないですか。そうしたのも「.hack」シリーズと言われる過去の作品を観たことがない人でも、そらの視点で一緒に、ちゃんと楽しめるようにしたかった。つまりそらには、何も知らないお客さんの設定になってもらうことが大切だったんです。
−−「.hack」のファンを対象にしてしまうと、こうはなっていなかったわけですね。
そうですね。これはゲーム業界に限らず、どのコンテンツ業態も抱えている問題だと思います。シリーズが重なれば重なるほど、過去から応援してくれているお客さんの期待に応えるのは当然。そのことだけを考えすぎていると、表現の視野が狭くなってしまい、間違いなくお客さんの数は減ってしまいます。だからこそ今回の『ドットハック セカイの向こうに』は、初めて触れるお客さんを前提に制作していったわけなんです。
「僕たちは、思ってる以上につながってるのかもしれない」
−−『ドットハック セカイの向こうに』の面白さを際立たせているテーマの軸にあるのが、キャッチコピーにも使われている「僕たちは、思ってる以上につながってるのかもしれない」という言葉。出てくる人たちは、リアルでも、バーチャルな世界でも、人と人との繋がりを求めています。
そこはいちばん大事なところ。先にも言いましたが「.hack」はふたつの世界を描き進めていくように、表と裏という2つの表情はすごく意識していました。ヒロインのそらを中心に、彼女と同級生の智彦や田中に関しても、表向きの設定は「仲のいい3人」になっていますけど。じつは、劇中では語られない。むしろ、語る必要のない設定を我々は細かく作っています。
たとえば、そらと智彦は生まれも育ちも福岡で、幼なじみな関係。田中は、1年ちょっと前に東京から柳川へ引っ越してきた転校生。田中は東京に友達を残した状態で柳川へ引っ越したので、最初は友達がいなかった。そこで、東京の友達とコミュニケーションを取るためにTHE WORLDをやっていた。そのTHE WORLDをやっていく中、田中の存在に気づいた智彦が田中へ近づき、それで仲良くなり『ドットハック セカイの向こうに』の中に描かれた3人の関に繋がっていったと。
−−なるほど。
制作スタッフ全員が「なんで田中はこういう性格なのか?」「智彦は、だからこうなんだ」ということを全部、知ったうえで制作に関わっている。だから、劇中で語らなくとも、それぞれの関係性が、動きや表情、展開の中から見えてくるわけなんです。もちろんそれは、キャストの桜庭ななみさんを筆頭に、役者陣全員にも伝え、その背景を知ったうえで、それぞれのキャラクターを演じてもらいました。
その裏設定は、観る側がなんとなく感じてくれていれば、僕らはそれでいい。むしろ作ったり、演じる側が、絵の語る説得力や言葉を通した演技でその背景の感情を伝えることで、表面的には仲のいい3人だけど。ただ、仲がいいだけの3人ではないという想像の余地を、観ている側に伝えていける。僕は、それでいいんだと思っています。
−−「僕たちは、思ってる以上につながってるのかもしれない」。その関係性って、なんかいいですね。
我々が中学生のとき、携帯電話はまだありませんでした。ポケベルさえなかったです。もちろん、インターネットだってありません。だから、好きな子に連絡を取りたいと思っても、学校で会い、直接その想いを伝えるしかなかった。たとえ仲良くなっても、自宅に電話をしたら、お父さんやお母さんが出てしまうこともあるから、ダイヤルをまわすたびに“頼むからお父さんは出るな!!”と必至に祈り、取った相手がお母さんで“アチャー”と思うこともしばしばでした。そういうのが嫌だから、学校にいる間に「今日20時に電話するから、絶対に取ってくれ」と伝えたうえで電話をする。そういう時代でした。要は、何か行動を起こすには、直接自分がリアルに行動を起こすしか手段がなかったんです。
でも今って、間接的な繋がりを持つことも非常に多いじゃないですか。極端に言ってしまえば、会ったことないけど友達って言うでしょ。ソーシャルネットワークやオンラインゲーム上での繋がりって、まさにそうだと思うんですよ。しかも匿名性であることが、ネット社会の醍醐味である。それは同時に、怖さでもあるんですけど。
きっと今のお父さんお母さん世代からすれば、中学生の息子や娘がネットワークの中で知り合った人に対して「会ったことないけど、でも友達」と言うと「繋がっているつもりだけで、それは友達なんかじゃない」と頭ごなしに否定してしまう傾向が強いと思うんです。だけどそれって、勝手な大人側の意見でしかないんですよ。
−−確かにそう思います。
これもまた「表と裏」の話になりますけど。一見すると、繋がっているけど、顔も観たことないんだから、確かに繋がってはいないのかも知れない。けど、顔さえ観たことないけど、その人と繋がり、バーチャルな空間の中で逢えることによって、その人にとっての心の支えになっていることだってある。それが「僕たちは、思ってる以上につながってるのかもしれない」ということなんですよ。この曖昧性を、『ドットハック セカイの向こうに』には描きたかったんです。
そこには“人と人との出会いや繋がり”がある。
−−『ドットハック セカイの向こうに』の物語の中、頑固なアナログ人間だったそらのおじいちゃんが、THE WORLDを通して、遠くへ引っ越してしまった友達のおばあちゃんと繋がりを持っていたという内容も、言ってしまえばそういうことですもんね。
きっと現代の人間関係って、こうなんだと思います。会ったこともないのに、その人が良い人かどうかなんてわからないという意見も、確かにその通り。けれど、オンラインゲーム上で出会い、結婚をし、子供まで授かり、幸せに日々を過ごしている家庭だってあるように、今や、それが出会いの場にだってなっている。ネットワークの世界を通し、たとえ会ったことがなくとも。言葉だけのコミュニケーションだとしても、そこには“人と人との出会いや繋がり”がある。
−−誰もが、誰かと繋がり合いたくて、そこへ飛び込んでいくわけですからね。
今は、人と人が繋がりにくくなっている時代じゃないですか。そこが曖昧でわかりにくい時代だからと言って、それを頭ごなしに否定するんじゃなく、そういう状況の中で生きている自分たちを、決して悲観したり否定したりしないで欲しい。その気持ちもあって「僕たちは、思ってる以上につながっているのかもしれない」というテーマ性を決めたわけなんです。
−−THE WORLDの世界でも、知らない人たちどうしが、ひとつの事柄のために集まり、互いに仲間意識を持ちながら繋がりあっていく場面が登場していますもんね。
そう。あと、中には、そらを中心とした田中や智彦らとの甘酸っぱい青春模様も描き出されています。スタッフの中からは「もうすこし尖った感覚を入れませんか?」「この関係性って緩すぎません??」という意見も出ていましたけど……。大人が観たら、照れくさくて汗掻いちゃうような、そのギリギリで寸止めな関係性こそが大切だし、僕はそこが好きなんですよ。
−−絶対にその通りだと思います。あの甘酸っぱさに、観ている僕らも、キュンと胸高鳴る青春の風景を感じていましたから。
本当なら、もっと早い段階でTHE WORLDの中に入るというプロットもあったんです。やはりスタッフからも“いずれ、そらがTHE WORLDをやることは観ていればすぐにわかることだし、もっと早いタイミングでTHE WORLDの世界観を描きましょう”という声も出ていました。だけど、うかつにハリウッド映画のよう冒頭からインパクトを与えてしまうと、観ているほうは「ウォー!」とビックリはするかも知れないけど、その後の展開に対して、訳が分からなくなってしまうじゃないですか。だからこそ、最初にリアルな物語を、あえて「引っ張って、引っ張って」描きました。後半はうちの会社が得意としている派手な映像の演出を炸裂させながら、一気にたたみかけました。とは言っても、そこでも軸に置いてるのが「人と人との繋がり」ではあるんですけどね。
「田舎の綺麗な町で通学中の子供たちが最新のガジェットを持っている」ということ。
−−『ドットハック セカイの向こうに』って、中学生のそらを中心とした青春ムービーだなって、監督の話を聞きながら、改めて感じました。
柳川という田舎を舞台にしたところもいいでしょ。東京の下町のように“建物の向こう側に高層ビルが見える都会の喧騒の中”を舞台にという案もあったんだけど。制作スタジオが福岡にあるという理由もあってか、「田舎のノスタルジックな町を舞台にしたほうが、よりデジタルハザードの怖さを実感できるんじゃないか、こんな長閑な田舎に住む人たちでさえも、そういう現代社会の危険な目にあうことが面白いんじゃないか」と脚本を担当した伊藤和典氏と福岡の各地をまわり、舞台が柳川に決まりました。
−−今でも昭和な香り漂ってくる風景が、なんか素敵だなーと思いました。
柳川は水路が美しい水の町。だから鰻も美味しいし。どれだけ世の中が便利になっても、10年や50年、100年経ってもずっと柳の木が風に揺られるあの景色や柳川の風景は変わらないと思うし、田舎の良さは有り続けるものだと思います。そんなノスタルジーな風景の中で、最新のテクノロジーを詰め込んだ携帯電話を中学生が持ち歩いている。そのギャップこそが「.hack」なんですよ。宣伝ポスターに描かれている、柳川の町を背景に、仲良し3人が携帯画面を観てコミュニケーションを取っている。「田舎の綺麗な町で通学中の子供たちが最新のガジェットを持っている」ということに、この「.hack」のテーマの根幹があるんです。
「.hack」を通して僕が描きたかった10年来の想いを、この『ドットハック セカイの向こうに』で形にすることが出来ました。そんな夢のひとつが叶ったことが、今はすごく嬉しいんです。そんな想いの詰まった『ドットハック セカイの向こうに』を観てください。
TEXT:長澤智典
(C)2012 .hack Conglomerate
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