5月1日より始まった“上海万博”。10月31日まで開催される今回の博覧会。読者の中にも、万博を目的に上海へ行かれる方もいることだろう。その際は、ぜひ「DEVNET館」へ足を運んでいただきたい。そして館内にて、静野孔文監督の手による3Dアニメ『ミレニアムベイビー』を、ぜひご覧になっていただきたい。国連が運営する機関“DEVNET”が提唱する「未来へ向けたテーマ」。それをキャラクター化したのが、9人のマスコットたち“ミレニアムベイビー”。そのキャラクターたちも作品の中へ登場させながら、未来に歩む人類へ向けた平和願うメッセージを、エンターテイメントな視点で描き出したのがこの3Dアニメ『ミレニアムベイビー』になる。現在は、上海万博の会場を軸とした中国圏内でしか観ることができないが、すでに関係者の間では高い評価を得ているよう、今後の展開の話も出始めている。と言うことは、日本でも観れるチャンスが訪れるかも。われわれ取材班も特別に試写させていただいたが、DEVNETが提唱するテーマ性を、3D映像を通し、子供から大人まで楽しめながらも、グッと胸打つ想い投げかけゆく作品として昇華させていた。
ミレニアムベイビー制作のきっかけとは
−−まずは、静野監督が3Dアニメ『ミレニアムベイビー』を手がけることになった経緯から教えてください。
NGO/NPO組織が立ち上げた国際情報発展網協会(略称 DEVNET)という国連関係の部署から、まずは「上海万博の理念に基づいたマスコットとして、御前千賀子さんの手によって考案された“ミレニアムベイビー”という9体のキャラクターたちがいます。そのキャラクターたちを活かしつつ、DEVNETの掲げるテーマに基づいたアニメ作品を作っていただきたい。」という依頼を受けました。
ミレニアムベイビーたちは、妖精のような可愛いキャラクターたちなんですけど、DEVNET側は最初から、「このキャラクターたちを映像の中で用いつつ、それぞれのキャラクターが持っているテーマやメッセージ性、そしてDEVNETが上海万博を通し伝えたい理念さえ踏襲していただけるなら、あとは監督の自由な発想のもと、制作して欲しい」と言ってくださいました。しかも、3D立体視用のオリジナル・アニメーションにしたいという思いも伝えてくれたことから、とても興味深さを覚え、監督を引き受けさせていただきました。
−−9体のマスコットキャラクターであるミレニアムベイビーたちは、1体1体いろんなメッセージを背負っているんですよね?
キャラクターたちは、“環境破壊”や“飢えに苦しむ子供たち”、“男女平等な理念”に“人種差別を失くそう”などなど、9つの視点から作られています。ただ、それらすべてを1本の作品の中へ均一的に取り込むと散漫な印象を与えてしまう懸念もあり、まずは映像化するに当たって“環境破壊”という題材を軸に据えることを決めました。そこから内容を考えていく中、近未来の荒廃した地球へ訪れたミレニアムベイビーが、いかにして地球を光輝く未来へ導いてゆくかという物語が生まれたわけなんです。
−−全体を取り巻く雰囲気はファンタジックなんですが、途中からバトルシーンが出てきたりなど、生死を賭けた場面も登場。その辺に、静野監督の得意な分野を存分に発揮した印象も受けました。
元々あったキャラクターたちは非常に可愛らしい存在なんですね。だけど、これまでに僕が手がけてきたのは、どちらかと言えば可愛らしいキャラクターからは180度違う、筋骨隆々の男臭い世界観なんです。だから正直、最初は戸惑いました。その旨をDEVNET側へ伝えたところ、“自分の得意とする世界観でやっていい”ということでした。なので、主人公となるキャラクターもイチから作りあげ、その中のアイテムとして9体のキャラクターたちを取り入れながら、僕の世界観に合わせた物語として表現してみました。その結果として、バトルシーンも登場したりなど、シリアスなメッセージも内包した、子供から大人まで楽しめるエンターテイメント性満載な作品を作り上げられたわけです。ただ、バトルシーンに関して、実はDEVNET側からの要請でもあったんです。
−−そうなんですか?!
中国の方々が持つ“日本のアニメーション”に対する印象というのは、バトルシーンを通した感情のやり取りだったりするらしいんです。
眠らせてしまうのはもったいない!
−−『ミレニアムベイビー』の舞台になっているのは近未来の荒廃した地球。そこへ降り立ったミレニアムベイビーが、環境再生などを手がけるところから物語が始まります。まさにDEVNETが掲げるテーマ性と一致した内容が展開していきます。
DEVNETの提唱するテーマ性はもちろん、上海万博が掲げるテーマ性にも相応しい作品にとの思いから、未来の人類に対する警鐘や平和へのメッセージ的な側面も描き出していますが、それを前面に押し出しているわけではなく、あくまでもエンターテイメント性を一番に重視した物語にしながら、そのうえで9体のマスコットたちが持っているメッセージが少しでも伝わったらいいなという感覚で制作ました。
−−試写させていただいた映像には日本語でナレーションが入っていましたが、これは現地の言葉に変わるんですよね?
いえ、実際もこのままなんです。僕らも念頭に置いていたところだったのですが、先方側の要望で吹き替えは行いません。日本語というのが逆にいいみたいです。
−−何よりもこの作品の魅力は、迫力あふれる3Dアニメ作品になっていることです。
最近の流行りに乗ってますよね(笑)。じつは僕自身、幼い頃に立体視画に強い衝撃を受け、早くからアニメの世界でもCG映像へ積極的に取り組んできたので、むしろ3Dアニメーションはぜひ本格的に参画したい分野だったんです。日本では、まだまだ3D映像って馴染みが薄いですけど、すでに上海には数多くの3Dシアターが設置されていますし、実際に関係各位に完成した『ミレニアムベイビー』を見せたところ、とても高い評価を得ることが出来ました。いまのところ上海万博の会場のみでの上映ですけど、この映像を観た関係者の方々から、「このキャラクターたちを、今回の企画だけで眠らせてしまうのはもったいない」という話が出て、中国を舞台にした新しい展開が生まれる可能性も出てきています。
確実に3D映像の波は押し寄せてくるでしょう
−−やはりアニメの流れも、今はどんどん3D化へ向いてるということなのでしょうか?
海外では確実にそうですね。日本でも、ハード機器を製造しているメーカー各社、ハイビジョンの次は立体視画だ、ということでその制作へ力を注いでいますよね。そうしてハード面が進化したら、やはりソフト面だって充実させなきゃ意味がないですから、日本にも確実に3D映像の波は押し寄せてくると思います。
−−でもアニメーションの世界では、あの“二次元的な感覚”を好む人たちも多いじゃないですか。
それは僕も十分わかります。だからこそ、これからは“二次元”と“三次元”な表現との住み分けが出来ていくような気がしています。
−−静野監督は早い時期からCGを用いたり海外作品を手がけたりなど、日本のアニメ界へいろいろ画期的な表現の刺激を与えてきた方ですが、その姿勢はこれからも持ち続けていくわけですよね?
僕自身、コンピューターグラフィックスで描くアニメーションを得意としていますし、数年前にアメリカで放映になったテレビアニメーションの制作にも携わり、日本のスタッフ陣だけで作りあげていく中では決して経験出来ない考え方や表現の違いも学んできました。事実、今回の『ミレニアムベイビー』にしても、中国でフィルム作品に携わる人たちの情熱や理念というものを受け止めながら制作していきました。そういう面でも、僕自身はつねに、時代の流れの中で進化し続けながら作品を作りあげていきたいと思っています。
−−『ミレニアムベイビー』の制作に関しても、意見や解釈の違いなど、いろいろあったのでしょうか?
むしろ今回は先にも話したよう、まずDEVNET側から“表現して欲しい題材”のみをもらって、「この材料で自由に料理してください」と言ってもらえたので、自由にやらせてもらいました。もちろん、制作中には何度か確認のやり取りはありましたが、むしろ中国側も“日本のアニメーション現場が作る作品”を求めていたことから、完全に任せてくれたんだと思います。
−−実際、完成した作品に対して高い評判を得ています。あとは上海万博へ訪れた人たちがどのような反響を返してくれるかですね。
過去にいくつも経験していますが、日本人と海外の人が観た場合では、受け止め方の反響もいろいろ違うよう、僕自身も上海万博の会場へ何度か足を運びながら、観客たちの反応を直接この目で確かめつつ、「どこがウケて、どこが駄目だったのか」を勉強し、それを今後の展開へ繋げていきたいなと思っています。
−−すでに監督のもとへは、海外からの制作オファーがいくつも入ってきてるそうですね。
ありがたいことに、どんどん海外での放映用の制作オファーが来ています。だからアニメ界のゆく末を観た場合、日本という市場のみならず、最初から海外のみで放映するという、グローバルな視点を持ったうえでの制作も今後は求められていくと思います。もちろん、3D映像などの表現面も含め、世界を舞台にしたアニメーション表現分野の一つとして、この『ミレニアムベイビー』が育ってくれたら嬉しいですね。
理屈は横に置きながら、人種や年齢、性別を越え、どんな人が観ても心踊るエンターテイメントな作品に仕上げたつもりなので、上海万博来場の機会がある方はDEVNET館にも足を運び、ぜひこの物語を楽しんでください!
TEXT:長澤智典/荒井広希
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