エキサイトアニメトップ > インタビュー > みとせのりこ「カタン-cotton-」


なぜ、みんな唱歌に慣れ親しめないのか?

−−なぜ「歌唱を中心としたアルバム」を作ろうとしたのか、そこから教えてください。

もともと私、唱歌が大好きという背景があったんです。子供の頃に、母親がずっと好きで溜めておいたソノシートを、私に聴かせてくれていたんですね。それを毎日のように聴いていたので、刷り込みで(笑)そらで唄えるくらい唱歌は大好き。自分がそれくらい唱歌好きだったこともあり、『みんなも当たり前のように好きなんだろうな』と思い込んでいたんですけど…意外とみなさん、唱歌が嫌い…と言うか、唱歌に対して『つまらない』というイメージを抱いてたんですよ。

−−確かに、そんな印象を子供の頃に持ってたかも知れない。

そうですよね。学校の音楽の授業で歌わされるよう、学ぶものという感覚を与えられていたわけですし…
でも、普段私が“表現として触れているアニメやゲームの世界”では、唱歌の中に描かれているような“空”や“風”“季節”など、そういう“自然な息吹”のことを歌にしていく内容が多いんです。つまり、そういうアニメやゲーム音楽好きな方なら、唱歌だって当たり前に好きな世界観として馴れ親しんでいただける下地があるはずなんですよ。
『こんなに唱歌とアニメやゲーム音楽に共通点があるのに、なんでみんな嫌いなんだろう?』
…そう思ったときに気づいたのが、“アレンジ”の問題だったんです。

−−楽曲を彩る洋服を変えていけば、そこはクリアーしていけると。。。

はい。学校じゃどの曲もピアノ伴奏オンリーだったりしますしね、確かにそればかりだと聴くには単調ですよね。
それから、ちょっと話が戻るんですが、自分が純粋に音楽リスナーだった頃、好きだと感じる音楽というのが、もともとどことなく、民族的なサウンドのものが多かったんです。後からそれが「トラッドっぽい音楽」だっていうことを知るわけですが。自分がkircheというバンドで音楽を始めてみると、kircheもトラッド要素を取り入れた楽曲をよく作るので、いろんな国のトラッドに興味を持つようになりました。そんな中“アイリッシュ・トラッド”に出会い、『アイリッシュ・トラッドって、日本の楽曲と雰囲気が似てる』と感じたんです。で、『この2つをくっつけたら、すごく美しくてかっこいいんじゃないか』と積年密かに思い続けて…その成果が『カタン-cotton-』というアルバムに結び付きました。

日本の唱歌…ルーツを探れば、そこには「魂の郷愁」が見えてくる

−−『カタン-cotton-』には、誰もが親しんできた楽曲たちをいろいろ詰め込んでいます。「1番は知ってるけど、2番以降はこうなってたんだ」という歌も、聴いてて意外と多かったです。

そこまで深く聞く機会がないから、みなさん1番は耳にしてるけど…ということが多いんだと思います。或いははサビだけは知ってた、とか(笑)

−−収録した楽曲を選び出した基準。そこも、教えてください。

たくさん好きな唱歌があるんですけど、その中から『とくに好き』な楽曲を集め出していく中、日本古来の独特な階調の曲と並行して、それとは違う特徴あるスケール感のものがいくつかあって、でもそれがまた魅力的で。その曲のクレジットをよく見ると、もとは海外の民謡や賛美歌だったものが意外に多いことに気づいたんです。このアルバムには入れませんでしたけど、大好きな『トロイカ』はロシア民謡だし、『ほたるの光』はスコットランド民謡で、『埴生の宿』はアイルランド民謡だったりしますし。アルバム収録曲で言えば、『花の季節』はロマーニ(ジプシー)民謡。『雪のおどり』はチェコ民謡。『シャローム』はイスラエル民謡です。
日本の唱歌…と言っても、実はいろいろな国の古い音楽がベースになっていて、歌詞だけ日本語で綴られている歌もけっこうあるんです。それでも、どこの国の楽曲だろうと聴いていて『懐かしい気がする』のは、「始まりの混沌、魂の故郷はひとつだからなんじゃないか」という気がしたんです。

−−「始まりの混沌」…ですか。

はい。例えばどの国の神話を観ても、不思議と始まりは似ているんです。神様の配置や役割もよく似てる。太陽神が偉くて、月の神様が親族で…みたいに。きっと人間って、根本を辿っていくと、『ノスタルジー、郷愁性のようなものには共通項があるんじゃないか』と思ったんですね。そこから、『民族も時間も超えて全ての人の心に眠っている魂の郷愁を形にしたい』と思い、誰が聴いても懐かしいようなアルバムを目指して、海外発祥の曲だけど今や日本の唱歌として定着している曲も混ぜながら楽曲をセレクトしました。

小さな部屋で寄り添い楽しめるような、優しいアレンジの唱歌集

−−それでも14曲に絞り上げていくのは、大変な作業だったんじゃないですか?

選ぶのは、正直大変でした(笑)。最初に絞った段階でさえ50〜60曲ありましたから。でも今回は、『アイリッシュハープとアコーディオンの音色に似合う楽曲をアルバムの軸に据えてセレクト』していったので、結果的に収録した14曲に落ち着いた形になっています。ただ、14曲全てがアイリッシュハープとアコーディオンのみだとアレンジの幅が狭くなるので、電子音や多重録音によるコーラスなども入れながら、自分らしさとともに深みや多様性を与えていきました。

−−よくいくつもの声を重ねあわせ、歌声でも壮大なシンフォニック・コーラスを作りあげていく方が多いですけど。同じ声の重なりでも、みとせさんの場合は“美しく優しい声色の広がり”として声の多重録音を施していませんか?

確かに声の多重録音は、ファンタジックで壮大な世界観を描く場合に使うことが多いですけど、このアルバムは、“唱歌”を軸にした作品集ということもあり、『洗いざらしの白いワンピースのような印象を与えるアルバム』を目指して作ったんですよ。だから、曲によっては20数パートも声を重ねたりしているのに、あえて大きく広げない定位感でまとめたりしています。ましてこのアルバム自体が、“大きなホールで鳴っているようなよそゆきの音”ではなく、“自分の部屋で寄り添ってくれるようなプライベートな音”として作りあげていますから、自然、部屋に似合う声のアレンジを求めていくことになりました。

オリジナルの優しい響き…補作によって生まれた美しき情緒感

−−なるほど。あらためて聴いていて感じたのが、綴られた歌詞が醸しだす情緒性や郷愁誘う風景感でした。

唱歌に綴られた詩って、本当に美しいですよね。日本語の一番美しいところを、よく反映させていると思います。

−−最近では、なかなか使われない言葉も入ってますけど。それがまた、たおやかな響きを持って心に染み込んでいきますからね。

古(いにしえ)な日本の言葉たちというのは、ある種ファンタジックさを持っていますよね。その時代に生きてなかった私たちからすれば、当時は現実だった世界観も、今ではファンタジーな世界として見えてくる。そういう、『自分たちの文化が持つ美しさ』を唱歌には感じます。

−−アルバムにも収録中の「朧月夜」を聴いてると、その風景や生活感,情緒性などが、脳裏にリアルな姿として映し出されていきますからね。

「朧月夜」は、実はこっそりと私が補作もしてるんですけど。「朧月夜」という楽曲自体が、とても叙情的で、わらべ歌というよりは、ポップス的な雰囲気さえ持った唱歌なんです。ただ、楽曲自体が短くて、歌詞も2番で終わってしまうんですね。その「あっけなさ」も一つの味かもしれませんけど、『もっとポップスのように口ずさみたくなる形で届けたい』という思いから、2番が終わった後に間奏を繋げ、さらにまた3番の歌詞を付けてなど、アレンジを施していきました。

−−そう言われなければ、最初から「3番まである歌」と思ってしまう。それくらい、溶け込んだ詞になっていました。

ありがとうございます。おっしゃられたよう、聴いたときに『あれ?この歌3番まであったんだ』と思っていただけたら光栄です。同じく私は、「花の季節」でも補作をしたんですけど、アレンジをお願いしたザバダックの吉良知彦さんが、同じように短かった楽曲を長く大きく広げてくださったこともあり、その分を補作させていただきました(笑)

みずからの手で作りあげた、オリジナルな唱歌

−−唱歌の場合、もともと短い歌が多いですからね。

短いですよね。うっかりすると45秒程度で終わってしまったり。「うさぎ」など、アッと言う間ですからね。「たなばたさま」も短い歌なんですけど、アイリッシュトラッドから非常に似た曲調の曲をイントロとしてを付けることで情緒性や民族を超えた共通性を出しています。他にも「銀色の道」に挿入されている間奏、これも実はアイリッシュの曲ですが、違和感なく融けあっているかと。

−−「祝祭の輪舞-ロンド-」は、唯一のオリジナル歌として収録されていますね。

この曲はわたしも参加した『アルトネリコ』でも音楽を担当している土屋暁さんの作曲なんですが、土屋さん自身、声の多重録音が大好きな方で、音楽的趣味にも共通したものを感じることが多い方なんです。
このアルバムを作っていく中、『カバーだけじゃ面白みに欠けるから、1曲オリジナルの歌を入れよう』と思い、土屋さんに、『土屋さん自身の原風景、ノスタルジーが出る曲を』とお願いした中で生まれたのが、「祝祭の輪舞-ロンド-」でした。西洋の片田舎で行われる素朴な祭、みたいな風景…ということだったので、本当にそれらしく、手拍子と靴音以外は声だけの多重録音で作る楽曲になりました。

唱歌はジャパニーズ・トラッド歌

−−これからもみとせさんは、唱歌を唄い、作り続けていかれるのでしょうか?

“唱歌”と言うよりも、“世界共通のトラッド”を作っていきたいなと思ってます。“唱歌”って、まさしく“ジャパニーズ・トラッド”だと思うんです。どこの国でもそうですけど、トラッド音楽はいろんな国の人たちが親しんでくれるもの。そうやって海外に持っていっても慣れ親しんでいただけるような懐かしさと現代風なテイストも併せ持った“唱歌”を、これからも歌っていきたいです。と同時に、もう一つの私の持ち味でもある、打ち込みを多用した壮大でファンタジックな世界観も表現していきたいんです。そういう「ファンタジックな世界観/小さな部屋で心を満たす音楽」という2つの表情は、これからも追求し続けていきますから…

ミシン箱のような蓄音機を描いた美しいジャケット絵

−−ジャケットや中に描かれた絵も、とても情緒性を出しています

ガロなどでも活躍している、鳩山郁子さんにお願いして描いていただきました。このミシン箱のような蓄音機がとても素敵ですよね。しかも、胴体に螺子の映りこみが描かれていたりして、質感まで感じられるような画に仕上げて下さって。長年個人的にファンだったので感無量です(笑) ちなみにこれは現存した蓄音機で、「エジソンGEM型」というそうです。

−−タイトルに付けた『カタン-cotton-』、その言葉の由来も教えてください。

横に“コットン”と書いているように、もともとコットンという言葉のことなんですが、その言葉が日本に入ってきたとき、コットンという発音をちゃんと聞き取れず、当時の日本人は「カタン」と言っていたそうなんです。今でも木綿の糸のことを“カタン糸”と言ったりもしますし。『その言葉の響きが、とても可愛いなぁ』と思ったことや、語感が耳にもすごく馴染みやすいこと。何よりも、『日本人独特のファンタジー性がその言葉にはある』ということから、『カタン-cotton-』と名付けました。


次回作りたいのは、「暗黒乙女系」なアルバム(笑)

−−ぜひこのアルバムを聴き、心の中に眠る郷愁生を呼び起こしていただきたいですね。

ですね。“観たことないけど懐かしい気分になる”ことってあるじゃないですか。そういう気分を味わっていただきたいと言いますか、『体験したことないのに、なんか懐かしいね』、『だって、日本人だもん、DNAに刻まれてるから!』と言う味わいを、ぜひ感じていただけたらと思います。

−−最後に、今後のみとせさんなりの展望も聴かせてください。

今回の作品を作ったことで、もし次回も唱歌のアルバムを作れる機会があるのなら、『女学校で放課後に女の子たちが集まりピアノを弾きながら歌っている「暗黒乙女系」なアルバム』を作ってみたいですね(笑)

TEXT:長澤智典

リリース情報

●カタン-cotton-

みとせのりこ
2007.05.23 ON SALE
\3,150(税込)
KDSD-00150

01.ちいさい秋みつけた
02.花の季節
03.祝祭の輪舞-ロンド-
04.紅葉
05.宵待草
06.曼珠沙華
07.たなばたさま
08.うさぎ
09.雪のおどり
10.さくら
11.大きな古時計
12.銀色の道
13.朧月夜
14.シャローム

関連リンク

●みとせのりこ公式HP
●ティームエンタテインメント内